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津地方裁判所 平成11年(行ウ)2号 判決 1999年6月24日

主文

一  原告らが被告津市長に対し、三重県立津西高等学校の学校用地(津市河辺町字山籠〔番地略〕など合計79,355.42平方メートル)を被告三重県に寄附することの差止めを求める訴えを却下する。

二  原告らが被告津市長に対し、同被告が被告三重県に津西高等学校の学校用地を時価相当額で買い取れと請求するか、あるいは、三重県が所有する同一種類の財産と交換せよと請求しないで放置していることの違法確認を求める訴えを却下する。

三  原告らの被告津市長に対するその余の請求を棄却する。

四  原告らの被告津市契約財産課長に対する請求を棄却する。

五  原告らの被告三重県に対する請求を棄却する。

六  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求

一  被告津市長は、被告三重県に対し、三重県立津西高等学校(以下「津西高校」という。)の学校用地(津市河辺町字山籠〔番地略〕など合計79,355.42平方メートル。以下「本件土地」という。)を寄附してはならない。

二  被告津市長が、被告三重県に対し、本件土地を津市から時価相当額(120億0725万円)で買い取れと請求するか、あるいは、被告三重県が所有している同一種類の財産と交換せよと請求しないで放置していることは違法であることを確認する。

三  被告津市長及び被告津市契約財産課長が、被告三重県に対し、本件土地について、売買契約あるいは交換契約の成立まで、相当の貸付料(年間4363万円)を支払えと請求しないで怠っていることは違法であることを確認する。

四  被告三重県は、津市に対し、本件土地について、売買契約あるいは交換契約の成立まで、相当の貸付料(年間4363万円)を支払え。

第二  当事者の主張

一  原告らの主張

1  当事者

原告らは、津市の住民である。

2  津西高校の学校用地の取得の経緯

津市は、昭和49年10月11日、津西高校の学校用地として被告三重県に使用させる目的のもと、津市土地開発公社との間で、津市河辺町地内の新設県立高等学校用地、市道路用地、水道局用地及び農務課管理用地をまとめて11億3271万5202円で買い受ける旨の売買契約を締結した。右契約はその後2度にわたり一部変更されて、最終的な支払金額は、土地代金だけでも14億8835万7176円となり、津市は、昭和58年度に最終金の3億4042万1030円を支払い終わった。なお、津市は、右の土地売買代金以外にも、津西高校に関して、多額の造成費と寄附金を支払った。

3  寄附の合意

(一) 津市長角永清は、昭和47年10月31日、三重県知事田中覚に対し、「新設高校(後の津西高校)の敷地は必要面積を確保し造成のうえ三重県に寄付します。」と確約している。

(二) 津市長岡村初博は、昭和49年9月19日付で、三重県教育委員会に対し、翌9月20日から、右学校用地の使用管理を委譲したが、その際、「所有権帰属のことにつきましては現在登記関係手続中でありますので、これの終了後、別途協議をいたしたいと考えますからご了承下さい。」との文書を差し入れている。

(三) これらの経緯からすれば、津市が津西高校の学校用地を三重県に対し寄附することは、相当の確実性をもって予測され、津市に回復困難な損害を生ずるおそれがある。

4  津市による売買代金の支出と寄附の合意・実行は、地方財政法に違反している。

(一) 津市が津西高校の学校用地を取得したことも、寄附すると確約したことも、地方財政法に違反する違法行為である。

(二) 地方財政法27条1項は、「都道府県の行う土木その他の建設事業(高等学校の施設の建設事業を除く。)でその区域内の市町村を利するものについては、都道府県は、当該建設事業による受益の限度において、当該市町村に対し、当該建設事業に要する経費の一部を負担させることができる。」と規定している。

(三) 地方財政法27条1項に、(高等学校の施設の建設事業を除く。)と規定されているのは、昭和38年の地方財政法の改正において、高等学校の施設の建設事業が地方財政法27条の建設事業の中から除外され、高等学校の施設の建設事業に要する経費の一部を市町村に負担させることはできなくなったためである。そして、ここにいう「高等学校の施設の建設事業」には、建物のみならず、同建物の敷地の取得も含まれるのである。

その趣旨は、高等学校の設置は、原則として都道府県の事務(公立の高等学校の設置適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律3条1項)であって、広域行政を担当する都道府県が県全体の進学希望者数等を勘案して、適正な配置計画を定め、これに基づいてその整備を図るべきものであり、特定の市町村が経費の負担をする等の理由により、その配置が左右されるべきものではないことや、市町村は義務教育施設の整備という事務を担当しており、地方公共団体に対する財源措置も設置者負担という見地から行われていることから考えれば、その経費は設置者たる都道府県が負担すべきであり、都道府県よりも財政の弱い市町村に負担させるべきではないとされたからである。

(四) 従って、津西高校の敷地の取得は、被告三重県がその負担において取得すべきものであり、被告三重県に代わって津市が取得したうえで、被告三重県に寄附すると合意することも、寄附を実行することも地方財政法27条や地方公共団体の経費の負担区分を乱すことを禁じた地方財政法28条の2の規定に違反する違法行為である。

(五) よって、原告らは被告津市長に対し、地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項1号に基づいて、寄附の差止めを求める。

5  違法状態の是正方法

(一) 違法状態を是正するには、被告三重県に対し、本件土地を津市から買い取らせるか、あるいは、被告三重県が所有している同一種類の財産と交換することにより、この違法状態を解消すべきである。

(二) 津市財産に関する条例(昭和36年10月5日条例第20号、最終改正平成6年3月30日)は、27条で次のように規定している。

「普通財産は次の各号の一に該当するときは、これを他の同一種類の財産と交換することができる。ただし、価額の差額が、その高価なものの価額の6分の1をこえるときはこの限りではない。

二  公共団体において、公用または公共用に供するため本市の普通財産を必要とするとき。」

(三) しかるに、被告津市長は、違法状態を是正することをせずに、放置しているので、原告らは、法242条の2第1項3号に基づき、怠る事実の違法確認を求める。

6 津市の財産としての管理状態

(一)  津市は、本件土地を契約財産課の所轄している普通財産として扱っている(平成9年3月31日付「財産に関する調書」)。

(二)  津市財産に関する条例(昭和36年10月5日条例第20号、最終改正平成6年3月30日)では、次のように規定されている。

「法第238条の5第1項の規定に基づき、普通財産を貸し付ける場合においては、その貸付期間は、次の各号に掲げる貸付に応じ、それぞれ当該各号に定める期間を越えてはならない。

一 建物の所有を目的とする土地の貸付け 30年

二 土地及びその定着物(建物を除く。)の貸付け(前号に規定する貸付けを除く。)」

(三)  津市有財産取扱規程(昭和29年10月5日規程第8号、最終改正平成9年3月28日)によれば、「普通財産は契約財産課長がこれを管理する。」(4条)と定められている。

(四)  しかるに、津市と被告三重県との間には、本件土地についての明確な使用貸借契約もない。すなわち、本件土地は、津市の所有に係る普通財産であるところ、津市は、契約書もないままに、被告三重県に対して、昭和49年9月20日以降、24年間の長期間にわたり、契約期間の定めもなく、契約の終期も定めないままに、だらだらと無償で使用させ続けている。本件土地については、〔証拠略〕「学校用地の使用管理について」と題する文書が存在するが、右文書は、本件土地の管理委託契約であって、使用貸借契約ではない。本件土地は、津市が被告三重県に寄附するまでの暫定的な管理を委託するものとして、学校用地の管理に関する委託契約がなされているに過ぎないのであって、使用貸借契約すら締結されていないものである。

7(一) 違法状態を解消しないまま、昭和49年9月20日から今日まで、被告三重県に対し、無償で本件土地を使用させてきたのは、地方財政法の趣旨に反する違法行為であり、その是正がなされなければならない。

(二) 地方財政法27条や28条の2の趣旨は、県立高校の学校用地の取得を地元市町村に負担させる行為だけではなく、土地を無償使用させることも禁ずる趣旨と解すべきであるから、被告三重県が無償使用に甘んじ、被告津市長が被告三重県に対し相当の貸付料の支払を請求しないことは、違法行為である。

(三)  津市は、津市財産に関する条例14条の但書に、地方公共団体において公用もしくは公共用の用に供するときは、無償で貸し付けることができるとの規定があることを理由に、無償貸付を合理化しようとしているが、使用貸借に関する明確な合意文書は存在しない。また、使用貸借であるとしても、地方財政法が津市財産に関する条例に優越することは明らかであって、地方財政法に反する無償貸与の扱いは正当化されるものではない。

(四)  したがって、被告三重県は、津市に対して、本件土地の使用の対価として相当の貸付料を支払うべきである。また、被告津市長が、被告三重県に対して、相当の貸付料を支払えと請求しないで怠っていることは違法であるので、原告らは、法242条の2第1項3号に基づき、被告津市長及び同津市契約財産課長に対して怠る事実の違法確認を求めるとともに、同項4号に基づき、津市に代位して被告三重県に対して相当貸付料の支払を求める。

(五)  本件土地の時価がいくらであるかを、三重県総合文化センター駐車場用地の取得代金(1平方メートル当たり15万1348円)を根拠に推定すると、面積が79,335.42平方メートルであるから、総額120億0725万円である。次に、年間使用料は、三重県総合文化センター駐車場(口池駐車場)の地代(1平方メートル当たり550円)を基に算出すると、4363万4481円であり、津商業高校の学校用地の借地料(1平方メートル当たり616円)を基に算出すると、4887万0618円であるから、低い方の4363万4481円が地代である。

8 監査結果

原告らは、平成10年11月12日、津市監査委員に対し、住民監査請求をしたところ、平成10年12月28日付の「住民監査請求の監査結果について(通知)」と題する文書で「請求は理由がない」と通知された。

9 よって、原告らは、被告らに対し、地方自治法242条の2第1項に基づき、第一欄記載の判決を求める。

二  被告三重県の主張

1  原告らの主張のうち1項の事実は不知。

2  同2項の事実はいずれも不知。

3  同3項のうち、(一)及び(二)の事実は認め、(三)は争う。

4  同4項のうち、(二)の事実は認め、その余の主張は争う。

地方財政法27条1項によれば、高等学校の施設の建設事業に要する経費を市町村に負担させることはできないこととなっているが、この規定は市町村が自発的に寄附することまでも規制するものではないと解すべきであり、市町村が自発的になす寄附は違法ではない。

5  同5項のうち、(二)の事実は不知。その余の主張は争う。

6(一)  同6項(一)の事実のうち、津市が本件土地を普通財産として扱っていることは認めるが、その余は不知。

(二)  同6項(二)の事実は不知。

(三)  同6項(三)の事実は不知。

(四)  同6項(四)の事実のうち、本件土地が津市の所有に係る普通財産であること、津市は契約書を作成することなく被告三重県に対し昭和49年9月20日以降24年間契約期間の定めなく、右土地の使用を認めていることは認め、その余は争う。

7  同7項の主張は争う。

なお、三重県総合文化センター駐車場用地、津商業高校の学校用地と本件土地とは地理的条件等が大きく異なるのであるから、前二者の借地料(地代)を基に後者の借地料(地代)を算出することはできない。

8  同8項の事実は不知。

三  被告津市長及び同津市契約財産課長の主張(本案前の抗弁)

1  差止め請求について

原告らが差止めを求めているのは、「寄附」、つまり、無償の譲渡である。

そして、津市においては、津市財産に関する条例28条で、普通財産は「公共団体…において公用…に供するため」(同条1号)であれば、無償で譲渡することができる旨規定しているが、実際には、重要な財産の処分(有償、無償を問わない。)については、津市議会の全員協議会なり担当委員協議会に諮ってきたものであり、行政慣行である。

とりわけ、本件土地に関しては、後述するように、津市議会で度々問題として取り上げられたものであって、津市が本件土地を被告三重県に実際に無償譲渡をするとすれば、津市議会の全員協議会又は委員協議会に諮る必要がある。ところが、津市において、未だ右手続は行われていないし、被告津市長としても、現在のところ、右手続を行う所存はない。

したがって、差止め請求の要件である「当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合」には該当しない。よって、他の点を考慮するまでもなく、右訴えは却下されるべきである。

2  怠る事実の違法確認請求について

(一) 本件土地は津市の普通財産である。本件土地については、昭和49年4月の津西高校の開校以来、被告三重県が無償でこれを使用している。これについては、津市作成の昭和49年9月19日付「学校用地の使用管理について」と題する三重県教育委員会教育長清水英明宛の書面(〔証拠略〕)が作成され、使用貸借契約が締結されている。したがって、津市と被告三重県の間の右使用貸借契約(当該行為)がなされてから、実に、24年間を経過しているのである。

(二) ところが、原告らは、右使用貸借契約の存続を前提として、<1>被告津市長が、被告三重県に対して「買い取れ」「交換せよ」と請求しないことが違法であること、<2>被告津市契約財産課長が、被告三重県に対して「相当の賃料を支払え」と請求しないことが違法であることの確認を求めている。

しかし、使用貸借契約を締結したことの当否自体が問題とされるならともかく(その場合には、「当該行為」が存在するのであるから、監査請求期間の制限に服することは明らかである。)、使用貸借契約が存在することを前提として、使用借人に対して「買い取れ」「交換せよ」「相当の賃料を支払え」と請求しないことは、いわば当然のことであって、財産の管理を「違法」に怠る事実に当たらないことは明らかである。

(三) そして、監査請求期間との関係で言えば、「特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは、当該監査請求については、右怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である」(最高裁昭和62年2月20日判決)から、本件土地に関する使用貸借契約の締結行為のあった昭和49年から24年も経過した平成10年11月12日になした本件監査請求(〔証拠略〕)は、不適法なものである。

そして、津市と被告三重県との間で、本件土地に関し、使用貸借契約が締結されていることは、昭和59年2月3日付朝日新聞(〔証拠略〕)に、「県立津西高校」「『市有地』の上に10年」「津市、苦しい台所の事情、県移管の約束果たせず」との見出しで報道されていたし、津市議会においては、昭和56年6月定例会、平成5年12月定例会、平成7年9月定例会、平成9年6月定例会、平成10年3月定例会において、共産党所属議員が質問し、これに対して市長等が答弁していたのであるから、監査請求期間徒過についての正当な理由はない。

3  以上のとおりであるから、原告らの請求は、いずれも却下されるべきである。

第三  当裁判所の判断

一  原告らの請求第一項(本件土地の寄附差止め請求。以下「第一請求」という。)について

1  原告らが被告津市長に対し、本件土地の寄附差止めを求める訴えは、法242条の2第1項1号に基づくものであるところ、1号請求において差止めの対象とするものは未だ行われていない財務会計行為であるから、住民が1号請求を行うためには、法242条1項により、「当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合」であることが必要である。

2  そこで、被告津市長が被告三重県に対し本件土地を寄附することが「相当の確実さをもって予測される」か否かについて以下検討する。

〔証拠略〕によれば、昭和47年頃、津市においては、高学歴時代に備えて津地区への新設高等学校の誘致活動が高まっており、同年10月31日、津地区高校新設促進協議会会長・津市長角永清は三重県知事宛に、津地区での県立普通科高校の開校を求める要望書を提出したこと、右要望書において、津市長角永は「新設高校の敷地は別添図示の位置に必要面積を確保し造成のうえ三重県に寄付します。」と確約したこと、昭和49年、これらの活動が実を結んで、津市が津市土地開発公社から買い受けることになっていた本件土地上に三重県立津西高校が設立されたこと、津市長岡村初博は、昭和49年9月19日、「学校用地の使用管理について」と題する書面(〔証拠略〕)で、本件土地の使用管理の権限を三重県教育委員会へ委譲するとともに、「所有権帰属のことにつきましては現在登記関係手続中でありますので、これの終了後、別途協議をいたしたいと考えますから御了承ください。」と申し入れたこと、津市は、津市土地開発公社から本件土地(津市河辺町字山籠〔番地略〕など合計79,355.42平方メートル)を買い受ける手続を済ませ、昭和58年度までに本件土地の売買代金を支払い終えたこと、しかし、津市の被告三重県に対する本件土地の寄附は未だ実行に移されておらず、現在、津市においては、本件土地について、寄附といった方法によることのない財産管理の在り方が検討されていることが認められる。

以上によれば、津市は、本件土地の所有権を取得してから既に十数年が経過しているにもかかわらず、未だ被告三重県に対する寄附を実行していないことが認められるのであり、本件訴訟においても、被告津市長は、現在のところ、本件土地の寄附手続を行う予定はない旨答弁している。したがって、このような現況下では、被告津市長が被告三重県に対し本件土地の寄附を行うことが、相当の確実さをもって予想されるとは認められず、原告らの第一請求に係る訴えは不適法といわざるをえない。

二  原告らの請求第二項(被告津市長が被告三重県に対し、本件土地の買取請求・交換請求をしないで放置していることの違法確認請求。以下「第二請求」という。)について

1  原告らは、津市が津西高校学校用地を被告三重県に代わって取得したことは、地方財政法27条及び28条の2に違反する違法行行為であるから、被告津市長は、被告三重県に対し本件土地を時価で買い取らせるか、県所有の同一種類の財産と交換することにより、この違法状態を解消すべきであって、違法状態を是正せずに放置していることは、違法に財産の管理を怠る事実に該当すると主張する。

2  そこで右主張について検討するに、住民訴訟の制度趣旨は、住民が納税者の立場から、地方公共団体がその機関の違法な財務会計行為によって損害を被ることを防止し、あるいは被った損害を回復する手段を設け、これによって地方公共団体が適正な財務会計処理を行うことを保障することにあるのであるから、住民訴訟の対象とされる「財産の管理を怠る事実」(法242条1項)とは、地方公共団体の執行機関又は職員が、当該地方公共団体の有する財産(公有財産、物品、債権、基金―法237条)の財産的価値の低下を防ぎ、良好な状態に維持・保存すべき作為義務に違反して、なすべき行為を怠っている不作為を意味すると解される。

これを本件についてみると、原告らが第二請求で主張している不作為は、被告津市長が県に対し本件土地の買取請求・交換請求をしないという不作為であるが、右に述べたところによれば、公有財産である本件土地に対する法242条1項にいう財産上の管理とは、本件土地の不動産としての価値低下を防ぎ、良好な状態に維持・保存することをいうにとどまり、それ以上に、当該土地を地に売却したり交換したりするようなことまでも含むとは解し得ないから、原告らの主張する右不作為は、本件土地の管理を怠る事実には該当しないというべきである。また、原告らの第二請求は、被告津市長が県に対して有する土地買取請求権・交換請求権を行使しないことをもって、右各請求権という債権の管理を怠る事実としているようにも理解しうるが、そもそも本件土地について買取請求権・交換請求権が発生する根拠が見当たらないのみならず、法237条にいう「債権」とは「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利」をいうものであるから(法240条1項)、土地買取請求権・交換請求権が「債権」に当たらないことも明らかである。

以上によれば、結局、原告らの右主張は、被告津市長が本件土地について積極的措置を採らないことを非難するに過ぎず、津市の有する財産の財産的価値を低下させる(又はその恐れがある)不作為を具体的に摘示するものではないから、住民訴訟の対象となる「財産の管理を怠る事実」を主張するものではないというべきである。原告らの第二請求に係る訴えは不適法といわざるをえない。

三  原告らの請求第三及び第四項(被告津市長及び同津市契約財産課長が被告三重県に対し本件土地の相当貸付料を請求しないで放置していることの違法確認請求、及び、被告三重県に対する津西高校学校用地の相当貸付料請求。以下、まとめて「第二請求」という。)

1  当事者間に争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、本件土地は津市の普通財産であること、津市有財産取扱規程4条によれば、普通財産は契約財産課長がこれを管理すると定められていることが認められる。

2  原告らは、津市が被告三重県との間で何らの契約も締結せずに、本件土地を使用させているのは違法であるから、被告津市長及び同津市契約財産課長が、被告三重県に対し相当貸付料請求権を行使しないことは、違法に財産の管理を怠る事実に該当すると主張する。

そこで検討するに、〔証拠略〕によれば、昭和49年9月20日、津市長岡村初博は、「学校用地の使用管理について」と題する書面をもって、津西高校学校用地の使用並びに管理の権限を三重県教育委員会に対して委譲したこと、これまで津市と被告三重県との間で本件土地に関する正式な使用貸借契約書が作成されたことはないものの、被告三重県は、右書面に基づき、右同日以来現在に至るまで、本件土地を津西高校の学校用地として無償で使用していることが認められる。そして、右認定事実によれば、被告三重県が津市の了解のもとで、本件土地を無償使用していることは明らかであるから、被告三重県と津市との間には、本件土地について使用貸借契約が成立していると認めるのが相当である。

これに対し、原告らは、正式の使用貸借契約書が存在しないことや、使用貸借期間の定めがないことをもって、右使用貸借契約は存在しない旨主張するが、使用貸借契約書が存在しなくとも両者の意思の合致によって契約が成立することは自明の理であるし、民法593条及び597条によれば、使用貸借契約において期間の定めは成立要件ではないのであるから、原告らの右主張は当を得たものではなく、採用することができない。ちなみに、原告らは、前記「学校用地の使用管理について」と題する書面(〔証拠略〕)は、本件土地に関する管理委託契約を記載したものに過ぎず、使用貸借契約に関する書面ではないと主張するが、前記一1のとおり、本件土地は津西高校学校用地として使用されることを目的として取得されたのであるから、右文書は、津市が本件土地を、学校用地として被告三重県に使用収益させることを約した文書であると解するのが自然であって、文書に「使用貸借」の文言が入っていないとしても、これを単なる土地管理委託契約と見るのは実態に合わないというべきである。

したがって、被告三重県は本件土地を使用貸借契約に基づいて適法に占有しているのであるから、津市が被告三重県に対して本件土地の貸付料を請求しないのは当然であって、被告津市長及び同津市契約財産課長において、違法に財産管理を怠る事実は認められない。よって、原告らの第三請求は理由がない。

3  原告らは、使用貸借契約の存在を否認したうえで第三請求をするものであるが、原告らの主張には、仮に使用貸借契約が存在するとしても、その契約は違法であるとの主張(以下「予備的主張」という。)も含むようであるので、右主張に対しても検討する。

原告らは、第三請求及びこれに先立つ監査請求において、被告津市長らの財産管理を怠る事実を主張しているところ、怠る事実に係る監査請求については、法242条2項の適用はないのが原則である(最高裁第三小法廷判決昭和53年6月23日・判例時報897号54頁参照)。しかし、当該監査請求が、当該地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし、当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは、当該監査請求については、右怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として、同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である。なぜならば、法242条2項の規定により、当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過した後にされた監査請求は不適法とされ、当該行為の違法是正等の措置を請求することができないものとしているにもかかわらず、監査請求の対象を当該行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という怠る事実として構成することにより同項の定める監査請求期間の制限を受けずに当該行為の違法是正等の措置を請求し得るものとすれば、法が同項の規定により監査請求に期間制限を設けた趣旨が没却されるといわざるを得ないからである(最高裁第二小法廷判決昭和62年2月20日・民集41巻1号122頁参照)。

これを本件についてみると、原告らの予備的主張は、本件使用貸借契約の締結が違法であることを前提とするものであるから、結局、右主張は、違法な使用貸借契約の締結に基づいて発生する損害賠償請求権の不行使をもって、財産管理を怠る事実に該当すると主張しているものと解さざるを得ない。したがって、右主張を内容とする監査請求は、使用貸借契約締結の日から1年の制限期間に服するが、前記2によれば、本件土地に関する使用貸借契約は昭和49年9月20日頃に成立していることが認められるから、平成10年11月12日付で行われた原告らの監査請求が、法242条2項本文の制限期間を徒過していることは明らかである(なお、〔証拠略〕によれば、昭和49年9月20日に三重県教育委員会に使用管理が委譲された学校用地は78,549平方メートルであり、本件訴訟で対象となっている学校用地は79,355.42平方メートルであることが認められるが、仮に本件土地中に、昭和49年9月20日付使用貸借契約に含まれない部分があったとしても、津市が津市土地開発公社に本件土地の売買代金を支払い終えた昭和58年度までには、残りの学校用地についても、津市と被告三重県の間で黙示の使用貸借契約が成立しているものと推認されるから、右齟齬は前記認定を左右するものではない。)。

そして、法242条2項但書は、制限期間を徒過したことにつき「正当な理由」があるときは同項本文の規定が適用されない旨定めているが、本件土地については、昭和59年2月3日付朝日新聞で、「県立津西高校」「『市有地』の上に10年」との見出しで、津西高校学校用地が津市所有のままである旨の報道がなされているし(〔証拠略〕)、津市議会においても、昭和56年6月定例会・平成5年12月定例会・平成7年9月定例会・平成9年6月定例会・平成10年3月定例会において、本件土地に関する質疑が行われているのであるから(〔証拠略〕)、住民が相当の注意力をもって調査すれば、津市と被告三重県との間の使用貸借契約の存在を知ることは可能であったと認められる。よって、監査請求期間徒過について「正当な理由」があったとは認められない。

したがって、原告らの予備的主張に基づく第三請求に係る訴えは、適法な監査請求を経ていない不適法な訴えである。

四  結論

以上によれば、原告らの請求のうち、被告津市長が被告三重県に対し本件土地の寄附をすることの差止め請求及び被告津市長が被告三重県に対して本件土地の買取請求・交換請求をしないことの違法確認請求に係る訴えは不適法であるので却下することとし、被告津市長らが被告三重県に対して相当貸付料をしないことの違法確認請求及び被告三重県に対する相当貸付料の代位請求については理由がないので棄却することとし、訴訟費用については原告らの負担として、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山川悦男 裁判官 増田周三 渡邉千恵子)

≪参考≫ 二審名古屋高裁平成13年9月28日判決(平成11年(行コ)第18号)

【主文】

1 本件控訴並びに控訴人らの訴えの一部取下げ及び請求の趣旨の変更に基づき、原判決を次のとおり変更する。

2 被控訴人県は、津市に対し、8090万0786円を支払え。

3 控訴人らの被控訴人県に対する、平成9年11月11日までに発生した損害金を津市に支払うことを求める訴えをいずれも却下する。

4 控訴人らの被控訴人県に対する、その余の金員支払代位請求をいずれも棄却する。

5 被控訴人市長が被控訴人県に対し8090万0786円の支払を請求しないことが違法であることを確認する。

6 控訴人らの、被控訴人市長が被控訴人県に対し平成9年11月11日までに発生した損害金の支払を求めないことの違法確認の訴えをいずれも却下する。

7 控訴人らのその余の、被控訴人市長が被控訴人県に対し金員支払請求をしないことの違法確認請求をいずれも棄却する。

8 控訴人らの、被控訴人市長が被控訴人県に対し別紙物件目録記載の各土地について売買契約、交換契約又は賃貸借契約のいずれも申し込まないことの違法確認の訴えをいずれも却下する。

9 訴訟費用は、第1、2審を通じて、これを5分し、その1を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

【事実】

第1 当事者の求めた裁判

1 控訴人ら

(1) 原判決を取り消す(控訴人らは当審において差止めの訴えを取り下げた。)。

(2) 被控訴人県は、津市に対し、8787万6236円及び平成13年4月1日から、

ア 被控訴人県が津市から別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)を買い取る契約(以下「本件売買契約」という。)が締結された日

イ 被控訴人県と津市が本件土地を被控訴人県所有の土地と交換する契約(以下「本件交換契約」という。)が締結された日

ウ 被控訴人県が津市から本件土地を賃借する契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が締結された日のうちいずれか最も早く到来する日まで、1か年当たり2128万9898円の割合による金員を支払え(控訴人らは当審において金員支払請求を減縮した。)。

(3) 被控訴人市長が、被控訴人県に対し、前項の金員を請求しないことは違法であることを確認する(控訴人らは当審において請求の趣旨を変更した。)。

(4) 被控訴人市長が、被控訴人県に対し、本件売買契約及び本件交換契約並びに本件賃貸借契約のいずれの申込みもしないでいることが違法であることを確認する(控訴人らは当審において請求の趣旨を変更した。)。

(5) 訴訟費用は、第1、2審を通じて、被控訴人らの負担とする。

2 被控訴人ら

(1) 本件控訴をいずれも棄却する。

(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。

第2 当事者の主張

1 本案前の主張

(1) 被控訴人市長の主張

ア 本件土地は津市の普通財産であるところ、津市と被控訴人県の間においては、抗弁(1)のとおり、既に昭和48年8月ころ、遅くとも昭和49年9月には、本件土地を三重県立津西高等学校(以下「本件高校」という。)の敷地として使用することを目的とする使用貸借契約(以下「本件使用貸借契約」という。)が成立しており、以後、4半世紀が経過している。

ところで、控訴人らは、被控訴人市長に対して、前記第1の1(2)ないし(4)の各訴えを提起し、被控訴人県が本件土地を権原なく占有しているにもかかわらず、被控訴人市長は被控訴人県に対し上記不法占有に基づく本件土地の使用損害金を請求する等しないとして、被控訴人市長には津市有財産の管理を怠る事実があると主張し、津市に代位して被控訴人県に対し同使用損害金を請求している。これに対し、被控訴人らは、抗弁として本件使用貸借契約の存在を主張しているが、控訴人らはこれを否認し、かつ、同契約の存在が認定される場合に備え、再抗弁として、本件使用貸借契約の締結は違法であり、同契約は無効であるとして、上記不法占有を主張している。

イ しかし、本件使用貸借契約は津市の財務会計行為であるから、同契約の違法、無効の主張に基づく本件請求は、いわゆる不真正怠る事実の主張に基づく請求にあたるので、これについての監査請求には、本件使用貸借契約が締結された日を基準として地方自治法242条2項を適用すべきであるから、控訴人らが平成10年11月12日に津市監査委員に対してした地方自治法242条に基づく住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)は、期間徒過により不適法である。

ウ また、仮に、本件使用貸借契約の締結が認められず、津市の被控訴人県に対する、本件土地不法占有に基づく損害賠償請求権が認められるとしても、公有地の不法占拠のように怠る事実に起因して日々損害が発生する場合は、同怠る事実の継続中に同損害の賠償について監査請求しても、同監査請求の日から遡って1年前よりも過去の分についての監査請求は、地方自治法242条2項により不適法と解すべきであるから、前記第1の1(2)及び(3)の訴えのうち、本件監査請求日の前日である平成9年11月11日までに発生した損害金を請求しないことの違法確認を求める部分は、不適法として却下されるべきである。

(2) 控訴人らの反論

ア 控訴人らが、被控訴人県が無償で本件土地を使用していること、津市と被控訴人県との間には本件土地使用についての契約書がないことを知ったのは、早くとも平成10年10月16日である。

すなわち、控訴人らは、被控訴人県の所有する施設である三重県総合文化センターの駐車場の敷地として、津市が被控訴人県に対し津市有地を無償で貸し付けていることを調査中、同調査のため津市情報公開条例に基づいて行った平成10年10月16日付け情報公開請求により開示された津市の普通財産貸付一覧(〔証拠略〕)を見て初めて、被控訴人県が無償で本件土地を使用していること、津市と被控訴人県との間には本件土地使用についての契約書がないことを知ったのである。

控訴人らは、津市情報公開条例と三重県情報公開条例に基づいて情報公開請求を重ね、1つの情報公開請求に基づいて知り得たわずかの情報をもとに、次の情報公開請求を行うという作業を数え切れないほど繰り返して、ようやく実態の一部を知ることができるにすぎない。被控訴人市長の下記(3)の主張のように新聞報道があったとか、議会で質疑応答があったことによっては、控訴人らは、被控訴人県が無償で本件土地を使用していることを知ることはできなかったし、まして、被控訴人県が権原なく本件土地を使用していることを知ることはできなかった。

上記のとおり、控訴人らには、地方自治法242条2項ただし書所定の正当な理由がある。

イ 被控訴人市長の主張するとおり、怠る事実に起因して日々損害が発生する場合、同怠る事実の継続中に同損害の賠償について監査請求しても、同監査請求の日から1年前よりも過去の分については、同監査請求は不適法であるとしても、次のとおり、前記第1の1(2)及び(3)の訴えのうち、平成9年4月1日以降に発生した損害金の支払を求める部分は適法である。

すなわち、地方公共団体の会計年度は、4月1日に始まって翌年の3月31日に終わるものであり、地方公共団体の所有する財産の適法な使用料の請求も会計年度ごとにされるものであることからすれば、上記財産の不法占有による損害賠償の請求を怠る事実についての監査請求も、会計年度ごとにまとめて考えられるべきである。つまり、本件監査請求は平成10年11月12日にされたから、その1年前である平成9年11月12日を含む会計年度である平成9年度に属する期間(平成9年4月1日から平成10年3月31日)に発生した損害金は、本件監査請求の日から1年前より過去(平成9年4月1日から同年11月11日までがこれにあたる。)に発生したものであっても、適法な監査請求を経たと解すべきである。

(3) 被控訴人市長の再反論

津市と被控訴人県が本件土地を目的とする使用貸借契約を締結していることについては、昭和59年2月3日付け朝日新聞(〔証拠略〕)に報道されていたし、津市議会の昭和56年6月定例会(〔証拠略〕)、平成5年12月定例会(〔証拠略〕)、平成7年9月定例会(〔証拠略〕)、平成9年6月定例会(〔証拠略〕)、平成10年3月定例会(〔証拠略〕)において、議員が質問し、これに対して市長等が答弁していたのであるから、控訴人らは、本件使用貸借契約の存在を知り得たはずである。

したがって、控訴人らには、監査請求期間徒過について正当な理由はない。

2 控訴人らの請求原因

(1) 控訴人らは、津市の住民である。

(2) 津市は、本件土地を所有している。

(3) 本件土地は、津市の普通財産である。

(4) 被控訴人市長は、津市の代表者である。

(5) 被控訴人県は、昭和49年4月1日までに、本件土地上に本件高校の校舎その他の施設を建築し、以後これを所有して、もって本件土地を占有している。

(6) 上記(5)の事情によれば、被控訴人県は、今後も相当長期間にわたって、本件土地を占有するものと考えられる。

(7) 津市には、被控訴人県による本件土地の不法占拠によって、下記計算式のとおり、平成9年度から平成11年度までは年額2200万4811円の損害が、平成12年度は年額2186万1803円の損害が、平成13年度は年額2128万9898円の損害がそれぞれ発生している。

平成9年度から平成11年度までの使用損害金年額

11億0024万0558円×0.5×0.04

=2200万4811円

平成12年度以降の使用損害金年額

10億9309万0173円×0.5×0.04

=2186万1803円

平成13年度以降の使用損害金年額

10億6449万4932円×0.5×0.04

=2128万9898円

ちなみに、上記計算式は、津市の住宅用又は非営利用の普通財産の貸付料年額(平成9年度ないし平成14年度分)を算出するため、津市が使用している算式「(固定資産税評価額×1/2)×4/100」に基づくものである。

ただし、本件土地は、津市所有地であるため固定資産税が課せられないので、固定資産評価がされていないところから、仮評価額をもってこれに代えている。平成9年度から平成11年度までの仮評価額は11億0024万0558円であり、平成12年度の仮評価額は10億9309万0173円であり、平成13年度の仮評価額は10億6449万4932円である。

上記のとおりであるから、津市の、平成9年4月1日から平成13年3月31日までの損害は合計8787万6236円であり、平成13年4月1日以降の損害は1年あたり2128万9898円の割合により算出される。

(8) 上記(5)ないし(7)のとおり、本件土地が被控訴人県に占有されて、津市に損害が発生し、今後も発生することが見込まれるのであるから、被控訴人市長は、津市を代表して、被控訴人県に対し、上記損害の賠償を請求(将来の請求を含む。)すべき義務を負っているにもかかわらず、これを果たしていない。

(9)ア 被控訴人市長は、津市所有の普通財産を適法かつ適正に管理する義務を負うから、上記(5)ないし(7)のとおり、津市所有の普通財産である本件土地について地方自治法、地方財政法に違反する状態がある以上、同違法状態を積極的に解消し是正するための適切な措置として、被控訴人県に対し、本件売買契約若しくは本件交換契約又は本件賃貸借契約の締結を申し込む義務がある。

イ 被控訴人市長は、被控訴人県に対し、上記各契約いずれの申込みもしていない。

(10) 監査請求

控訴人らは、平成10年11月12日、津市監査委員に対し、被控訴人県による本件土地の無償使用について、地方自治法242条に基づく本件監査請求をした。

津市監査委員は、本件監査請求を棄却し、平成10年12月28日付けの「住民監査請求の監査結果について(通知)」と題する文書により、控訴人らに対し、本件監査請求は理由がない旨通知した。

(11) よって、控訴人らは、地方自治法242条の2第1項の

ア 4号に基づき、津市に代位して、被控訴人県に対し、本件土地の不法占拠による損害賠償として、

(ア) 8787万6236円(平成9年4月1日から平成13年3月31日までの損害)

(イ) 平成13年4月1日から本件売買契約締結の日若しくは本件交換契約締結の日又は本件賃貸借契約締結の日のうちいずれか最も早く到来する日まで、1か年当たり2128万9898円の割合による使用損害金の支払を求め、

イ 3号に基づき、

(ア) 被控訴人市長が、被控訴人県に対し、上記アの損害金を請求しないことの違法の確認を求め、

(イ) 被控訴人市長が、被控訴人県に対し、本件土地について本件売買契約及び本件交換契約並びに本件賃貸借契約のいずれの申込みもしないでいることの違法の確認を求める。

3 請求原因に対する被控訴人らの認否

(1) 請求原因(1)ないし(5)の各事実はいずれも認める。

(2) 請求原因(6)の事実について

ア 被控訴人県

請求原因(6)の事実は認める。

イ 被控訴人市長

請求原因(6)の事実は不知。

(3) 請求原因(7)の事実について

ア 被控訴人県

請求原因(7)の事実は不知。

イ 被控訴人市長

請求原因(7)の事実のうち、津市が、住宅用又は非営利用の普通財産の貸付料(年額、平成9年度ないし平成14年度分)を算出するため、算式「(固定資産税評価額×1/2)×4/100」を使用していること、本件土地は、津市所有地であるため固定資産税が課せられないことから、固定資産評価がされていないこと、本件土地について、津市は固定資産評価に代わる仮評価を行い、平成9年度から平成11年度までの本件土地の仮評価額が年額11億0024万0558円と、平成12年度のそれが10億9309万0173円と、平成13年度のそれが年額10億6449万4932円とされたことはいずれも認め、その余は争う。

(4) 請求原因(8)の事実のうち、被控訴人市長が、津市を代表して、被控訴人県に対し、本件土地使用の対価を請求していないことは認め、その余は否認又は争う。

(5) 請求原因(9)アの事実のうち、被控訴人市長が、津市所有の普通財産を適法かつ適正に管理する義務を負うことは認め、その余は否認又は争う。

請求原因(9)イの事実は認める。

(6) 請求原因(10)の事実は認める。

4 被控訴人らの抗弁

(1) 被控訴人県は、昭和48年8月ころ、遅くとも昭和49年9月、津市から、本件高校の敷地として本件土地を使用借りした(前掲の本件使用貸借契約)。

(2) 津市財産に関する条例(昭和36年条例20号、以下「津市財産条例」という。)は、津市がその所有する普通財産(本件土地もこれに含まれる。)を第三者に対し使用貸しすることを認めている(地方自治法237条2項)。

5 抗弁に対する控訴人らの認否

(1) 抗弁(1)の事実は否認する。

(控訴人らの反論)

津市と被控訴人三重県との間で本件使用貸借契約が締結された事実はない。そのことは、本件使用貸借契約の契約書が存在しないこと、津市の普通財産貸付一覧(〔証拠略〕)に本件使用貸借契約の記載がないこと、被控訴人県が同県内の他市町村との間で県立高校用地につき使用貸借契約を締結している例は多々あり、それらの場合にはいずれも使用貸借契約書が存在することから明らかである。

(被控訴人らの再反論)

津市長から三重県教育長に対し本件土地の使用管理を委譲する旨記載した昭和49年9月19日付けの「学校用地の使用管理について」と題する文書(〔証拠略〕、以下「本件土地使用管理委譲書」という。)は、本件使用貸借契約の存在を証するものである。

(控訴人らの再々反論)

本件土地使用管理委譲書は、内容、体裁いずれからみても、使用貸借契約書ではない。管理委託と無償貸付とは、講学上、全く異なる概念であり(管理委託は委任と寄託の混合契約に類するものである。)、本件土地使用管理委譲書の内容は管理委託にあたるから、無償貸付である本件使用貸借契約の存在を証するものということはできない。

昭和49年当時、津市は、本件土地を取得した後、早急にこれを被控訴人県に寄付する予定でおり、本件土地使用管理委譲書は、寄付までの暫定的な使用管理を委譲する文書にすぎず、使用貸借契約の存在を示すものではない。

(2) 抗弁(2)の事実は認める。しかし、再抗弁(1)のとおり、本件使用貸借契約の有効要件は、議会による議決であるから、抗弁(2)は主張自体失当である。

6 控訴人らの再抗弁

(1) 仮に津市と被控訴人県が本件使用貸借契約を締結したとしても、同締結は、その有効要件として津市議会の議決による個別的な承認を要し、条例による一般的、包括的承認では足りない(地方自治法237条2項、3項)。

(2) また本件使用貸借契約の締結は、地方財政法27条、28条の2に違反するので、無効である。

(3) さらに、被控訴人県が本件使用貸借契約に基づいて本件高校用地を無償で使用することは、被控訴人県が津市内にある三重大学教育学部付属学校の学校用地の使用料として国から3億0893万円余の年間使用料の支払を受けていることや、桑名高校、菰野高校、桑名西高校、津商業高校の学校用地をそれぞれ桑名市、国、個人、県公立学校職員互助会から時価相当の使用料を支払って借りていること等と対比して、著しく平等、公平を失し、このことに照らせば、本件使用貸借契約は憲法14条の平等原則に違反する。

また、本件使用貸借契約は、社会通念に照らして著しく合理性を欠いたものであるから、公序良俗に違反し、無効である。

さらに、平成11年7月8日に成立した地方分権一括法の下では、三重県と同県内の各市町村は対等なパートナーの関係に立つのであるから、本件高校の場合のように、学校用地の全部を地元自治体から無償で借りて使用することは、地方分権一括法、地方財政法の趣旨に反するので、本件使用貸借契約は無効である。

7 再抗弁に対する被控訴人らの認否

再抗弁はいずれも争う。

本件使用貸借契約の有効要件は、抗弁(2)のとおり、津市財産条例の包括的承認で足り、議会の個別的承認決議を要しない。

本件高校が設立された昭和40年代後半当時に設立された三重県立の高等学校の敷地は、すべて地元市町等から被控訴人県に対し、任意の寄付がなされているのであり、控訴人らの憲法14条違反、民法90条違反等の主張は、前提事実を欠くものである。

【理由】

1(1) 請求原因(1)ないし(5)の各事実、請求原因(8)の事実のうち、被控訴人市長が、津市を代表して、被控訴人県に対し、本件土地使用の対価を請求していないこと、請求原因(9)アの事実のうち、被控訴人市長が、津市所有の普通財産を適法かつ適正に管理する義務を負うこと、請求原因(9)イ、同(10)の各事実については、各当事者間に争いがない。

(2) また、請求原因(6)の事実について、控訴人らと被控訴人県の間には争いがなく、さらに、請求原因(7)の事実のうち、津市が、住宅用又は非営利用の普通財産の貸付料年額(平成9年度ないし平成14年度分)を算出するため、算式「(固定資産税評価額×1/2)×4/100」を使用していること、本件土地は、津市所有地であるため固定資産税が課せられないことから、固定資産評価がされていないこと、本件土地について、津市は固定資産評価に代わる仮評価を行い、平成9年度から平成11年度までの本件土地の仮評価額が年額11億0024万0558円と、平成12年度のそれが10億9309万0173円と、平成13年度のそれが年額10億6449万4932円とされたことについて、控訴人らと被控訴人市長との間には争いがない。

2 そこで、抗弁(1)(本件使用貸借契約の成立)について判断する。

(1) 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。

ア 昭和47年当時、津市内にある県立の普通科高等学校は、津高等学校のみであったところ、生徒数の増加、進学率の上昇等により、津市内に普通科高等学校をもう1校新設してほしいという津市民や周辺自治体住民の要望が強くなったため、当時の津市長であった角永清は、津地区高校新設促進協議会の会長として、三重県知事に対し、昭和49年度から新設県立高校を開校するよう陳情したが、被控訴人県は、財政的事情等から難色を示した。

そこで、昭和47年10月31日、津市長角永清は、上記協議会会長として、三重県知事に対し、新設高校の敷地は必要面積を確保し、造成した上で、被控訴人県に寄付する旨、新設高校の敷地に通じる道路、水路等を確保する旨、新設高校校舎の建築費の一部を被控訴人県に対し一般寄付金として納入する旨約する内容の文書を送付し、遅くとも同年11月18日、同文書は三重県教育委員会に到達している。

そこで、被控訴人県は、津市内に普通科高等学校を新設することに同意し、津市が、新設高校用地の候補地を3か所挙げて、これを被控訴人県に示したところ、被控訴人県が本件土地を適地であるとしたので、津市は、津市土地開発公社をして本件土地を取得させ、自衛隊に造成を依頼し、造成後である昭和48年8月ころから、被控訴人県が本件土地上に校舎を建築して、昭和49年4月、本件高校が開校した。当時、被控訴人県は、近い将来、津市から本件土地の寄付を受けることができると考えていた。

イ 津市は、昭和49年9月18日、津市土地開発公社との間で、本件土地につき、下記内容の使用貸借契約を締結した。

目的 津市が被控訴人県をして本件高校用地として使用させること

期間 本件土地について津市土地開発公社から津市に対する所有権の移転手続が完了するまで

ウ 津市長は、昭和49年9月19日、三重県教育委員会の教育長に宛て、津市が本件高校の敷地を取得し、造成工事を施工してきたところ、所定の工事が完了したので、同月20日をもって、三重県教育委員会の教育長に対し本件土地の使用管理を委譲する旨、また、所有権帰属については、登記手続中であるので、その終了後、別途協議したい旨記載した本件土地使用管理委譲書(「学校用地の使用管理について」と題する昭和49年9月19日付け津市教管第100号文書である。〔証拠略〕)を送付し、同月24日、三重県教育委員会はこれを受理している。

エ 津市は、昭和49年10月11日、津市土地開発公社から、本件土地を買い受けて、その所有権を取得し、同月19日、本件土地について津市を所有者とする所有権移転登記を経由した。

オ 三重県は、本件高校が昭和49年4月に開校して以来、現在まで、本件土地を本件高校の敷地として無償で使用している。

(2) 被控訴人らは、本件土地使用管理委譲書をもって、津市の三重県に対する本件使用貸借契約の申込みであると主張し、また、昭和49年9月24日、本件土地使用管理委譲書が三重県教育委員会に受理されたことをもって、同申込みに対する三重県の承諾があったと主張する。しかし、次の各事情に照らせば、本件土地使用管理委譲書の送付及びその受理をもって、本件使用貸借契約の申込み及び承諾があったと認めることはできない。

ア 本件土地使用管理委譲書には「使用貸借」との文言がないばかりか、「無償貸付」「貸付」等の使用貸借契約をうかがわせる文言も全くない。また、本件土地使用管理委譲書には、本件土地の使用期間を始めとする契約条件の記載がなく、控訴人主張の本件使用貸借契約の申込書としての体裁を欠くといわざるを得ない。

一方、本件土地使用管理委譲書には、三重県教育委員会の教育長に対し、本件土地の使用管理を委譲するとの文言が記載されている。「使用管理の委譲」について定めた法令の規定はないが、国有財産特別措置法は、国有財産の「管理委託」を定めており、「管理委託」は、賃貸借契約でも使用貸措契約でもなく、委任及び寄託類似の混合契約というべきものである。地方自治法や地方財政法は「管理委託」についての規定を有しないが、国有財産特別措置法に準じて考えるべきであると解される。

上記のとおり、本件土地使用管理委譲書は、本件使用貸借契約の申込書としての体裁、内容を備えていないといわざるを得ない(ちなみに、本件土地使用管理委譲書(〔証拠略〕)のみから、津市と被控訴人県との間に本件土地を目的とする管理委託契約の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。)。

イ ところで、三重県立の白山高等学校、松阪高等学校、松阪工業高等学校、上野高等学校、上野商業高等学校は、それぞれ地元の市町から学校用地を使用借しており(〔証拠略〕)、これら使用貸借契約については、いずれも契約書が作成されている。

上記各契約書には、それぞれ使用貸借、無償貸付等の文言が明記されている上、期間や使用目的を始めとする契約条件が記載されており、借主欄には当該高等学校の校長が、貸主欄には貸主たる市町の長が記名、押印している(ただし、松阪工業高等学校の寄宿舎用地として松阪市有地を使用借する昭和53年6月1日付け契約書の当事者欄には、三重県知事と松阪市長が記名、押印している。)。

また、三重県立上野商業高等学校は、学校用地として上野市有地を賃借しているが、その契約書には賃貸借である旨、賃料や期間を始めとする契約条件を記載されており、当事者欄には、同高等学校長と上野市長が記名、押印している(〔証拠略〕)。

しかし、本件土地使用管理委譲書は、前記のとおり、その体裁、記載内容等に照らして、上記各契約書とは全く異なるものである。

ウ さらに、津市は、三重県に対し、住宅敷地として、津市島崎町〔番地略〕の宅地3327.83平方メートルを使用貸しているが、同契約書には使用貸借契約であることが明記され、無償貸付である旨や期間を始め、その他の契約条件が記載され、当事者欄には代表者として津市長と三重県知事の記名、押印がある(〔証拠略〕)。

津市は、三重県以外の第三者との間で、津市所有地(普通財産)を目的とする使用貸借契約を多数締結しているが、それら契約書においても、使用貸借契約、無償貸付、無償借受等の文言が使用されて、同契約が使用貸借契約であることが明示されており、その他に期間や使用目的を始めとする契約条件が記載されている(〔証拠略〕)。

しかし、本件土地使用管理委譲書は、前記のとおり、その体裁、記載内容等に照らして、上記各契約書とは全く異なるものである。

エ 津市の平成10年3月31日現在における普通財産貸付一覧表(〔証拠略〕)には、有償貸付、無償貸付併せて63件の津市所有土地の貸付が記載されているが、それらのうち本件土地(同表記載の土地のうち本件土地の面積は最大である。)についてのみ「当初契約の日」「契約期間」「現在契約の初期」(「初期」は「始期」の誤記と考えられる。)及び「現在契約の終期」の各欄が空欄となっている。

もっとも、被控訴人市長は、上記各欄が空欄になっているのは、本件使用貸借契約については契約書が作成されていないため、契約書のある他の契約と同様には記載できなかった結果にすぎない旨主張する。しかし、仮に直接の原因は契約書がないためであるとしても、本件土地のような広大な土地、しかも県立高等学校用地という公共性の高い目的に供されている土地について、契約書がないばかりか、当初契約の締結日も、契約期間も、現在契約の始期も終期も記載しないまま、津市の普通財産貸付一覧表が作成されているということは、普通財産管理の担当者、関係者らにも、それら詳細が知られていないことをうかがわせるものである。

オ そして、地方公共団体がその所有する普通財産につき使用貸借契約が存在するというためには、地方自治法239条に基づき、権限を有する者による契約締結行為を要するものというべきところ、その行為が存在しないまま普通財産の占有管理権限を移転しても、それは事実行為としての占有権の移転にほかならず、直ちに津市と被控訴人県との間に本件使用貸借契約が締結されたと認められるものではない。

(3) 以上のとおりであるから、前記(1)の証拠等から、本件使用貸借契約の締結行為(抗弁(1))を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

ちなみに、被控訴人らは、抗弁(2)のとおり、津市財産条例に基づき、本件土地の使用貸借の適法性を主張するが、同主張は本件使用貸借契約の締結行為の存在を前提とするものであることはいうまでもない。

3 そこで、被控訴人市長の本案前の申立てについて判断する。

(1) 前記2のとおり、本件使用貸借契約の締結行為は認められないから、同締結行為の存在を前提とする本案前の主張(1)イは認められない。

(2) ところで、本件使用貸借契約の締結行為が認められない以上、本件土地は被控訴人県の不法占有下にあり、津市には日々、被控訴人県に対する使用損害金請求権が発生していて、被控訴人市長が、被控訴人県に対し、同使用損害金の支払を請求しないことは、地方自治法242条1項の「怠る事実」にあたるが、それら日々の使用損害金請求権のうち、本件監査請求の日から遡って1年前より過去の分については、同条2項により、本件監査請求は不適法であるから、前記第1の1の(2)、同(3)の訴えのうち、本件監査請求の日(平成10年11月12日)から遡って1年前より過去の分(平成9年11月11日以前)の使用損害金の支払を求める訴えは、不適法として却下を免れない。

もっとも、控訴人らは、前記第2の1(2)ウの理由により、平成9年4月1日以降に発生した使用損害金請求の訴えは適法であると主張する。しかし、本件土地の不法占有(不法行為)による損害は、会計年度とは関わりなく、日々発生するのであるから、監査請求期間も会計年度とは関わりなく考慮すべきであり、控訴人らの主張は採用できない。

4 そこで、請求原因(7)(損害額)について判断する。

ア 本件監査請求の日は平成10年11月12日であるから、その1年前である平成9年11月12日から当審口頭弁論終結日(平成13年7月23日)までの損害額は、下記(ア)ないし(ウ)の各金額の合計8090万0786円である(〔証拠略〕)。

(ア) 平成9年11月12日から平成12年3月31日までの使用損害金額

11億0024万0558円×0.5×0.04×(139÷365+2)

=5238万9536円

(イ) 平成12年4月1日から平成13年3月31日までの使用損害金額

10億9309万0173円×0.5×0.04

=2186万1803円

(ウ) 平成13年4月1日から当審口頭弁論終結日(平成13年7月23日)までの使用損害金額

10億6449万4932円×0.5×0.04×(114÷365)

=664万9447円

イ ところで、控訴人らは、当審口頭弁論終結日の翌日以降についても、本件売買契約、本件交換契約又は本件賃貸借契約のうちいずれかが締結されるまで、1か年あたり2128万9898円の割合による使用損害金の支払を求めている。

しかし、被控訴人県が、今後も本件高校の設置、維持を継続する意向を示しているとはいえ(請求原因(6))、被控訴人県と津市が、本件訴訟終了後、最終的に本件土地の利用に関する問題をどのように処理するかは、いまだ明らかではなく、控訴人らの挙げる本件土地についての売買契約、交換契約又は賃貸借契約以外の解決方法も考えられないわけではないことに照らして、将来分の請求は認めないこととする。

5 以上のとおりであるから、控訴人らの、被控訴人市長が被控訴人県に対して本件土地の損害金の支払を請求しないことについて違法確認を求める請求は、上記4のとおり、本件監査請求日の1年前の日(平成9年11月12日)から当審口頭弁論終結日(平成13年7月23日)までに発生した損害金8090万0786円を請求しないことの違法確認を求める限度で認められるが、平成9年11月11日以前に発生した損害金の支払を請求しないことの違法確認を求める訴えは、前記3のとおり不適法であるから認められず、その余は理由がない。

6 また、控訴人らは、被控訴人市長が被控訴人県に対し本件土地について本件売買契約若しくは本件交換契約又は本件賃貸借契約をいずれも申し込まないことの違法確認を求めているが、地方自治法242条、同条の2の解釈上、契約の締結はいずれも「怠る事実」に含まれない上、公金の賦課若しくは徴収にあたるもの又は債権(地方自治法240条1項)の管理にあたるものとして構成することもできないから、上記各契約の締結を怠る事実があるとしても、地方自治法242条の2第1項3号に基づく違法確認の訴えを提起することは許されない。

したがって、控訴人らの、被控訴人市長が被控訴人県に対し上記各契約を申し込まないことの違法確認を求める訴えは、いずれも不適法として却下されるべきであるとした原判決の判断は相当である。

7 よって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの被控訴人県に対する金員支払請求は、8090万0786円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、平成9年11月11日までに発生した損害金の支払を求める部分の訴えを却下し、その余は失当として棄却し、被控訴人市長が被控訴人県に対し金員支払を求めないことの違法確認請求は、上記8090万0786円の支払を求めないことの違法確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、平成9年11月11日までに発生した損害金の支払請求をしないことの違法確認を求める部分の訴えを却下し、その余は失当として棄却し、被控訴人市長が被控訴人県に対し本件土地について契約を申し込まないことの違法確認を求める訴えを不適法として却下した原判決の判断は相当であるから、これを維持し、上記と異なる原判決を上記の限度で変更することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法67条、61条、64条、65条を適用し、仮執行の宣言は相当でないから、これを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大内捷司 裁判官 長門栄吉 加藤美枝子)

物件目録〔略〕

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